選抜総選挙はホストクラブの進化
選抜総選挙という仕組みは、ホストクラブビジネスと酷似しているように思う。
ホストクラブは、男性スタッフが接客し、ホストバー、メンズパブ、ホストラウンジといったホストカテゴリーの中で、最も料金が高いところである。
これは、1950年代にブームになったダンスホールが起源であり、このダンスホールに、場代を払い、生徒から講義指名を獲得することで稼ぎを得ていた、ダンス講師がホストのはじまりである。そして休憩のために置いてあったソファで、講師にチップを払って一緒にお酒を飲んだのが、ホストクラブビジネスのはじまりと言われている。
ゆえにホストクラブは、このビジネスモデルに準拠し、時給などの保証された報酬がない、指名料、チップから成る出来高制のビジネスである(最近は日当の最低保証をするホストクラブも増えた)。売り上げからの一定パーセントのバックや、ナンバー1賞などのインセンティブはあるが、利益モデルが成功報酬であることが特徴である。
このビジネスモデルによって、ホストたちは必然的に、指名を取り、売り上げを高め、NO1を目指すようになった。ここがAKB48のメンバーが、NO1を目指すのとよく似ている。
AKB48の場合は、「アンダーガールズ」に選ばれることで、「所属と愛の欲求」を充たし、「選抜メンバー」に選ばれることで、「承認や自尊の欲求」を充たし、「メディア選抜」に選ばれることで、「自己実現の欲求」を充たしたが、ホストにも同様のことが言える。
ホストの世界は完全な縦社会で、売り上げのあるものが派閥の長となり、その派閥に所属するホストと協力体制を作る。まずは、この派閥に属することが「所属と愛の欲求」を充たすことになる。次の段階は、派閥の長になることである。これは、自分が属する派閥の中で力を発揮して、それを譲り受けるか、あるいは、独立させてもらうことで実現する。この段階で、「承認や自尊の欲求」を充たすことになる。そして最後の「自己実現の欲求」の充足は、NO1になることである。
ホストクラブ創成期からホスト界の頂点に君臨しつづけるホストクラブ『クラブ愛』のオーナーであり、ホスト王である愛田武は次のように言う。「ナンバーワンになったら、こんな店でヘルプに大盤振る舞いしたい、こんな車に乗ってドライブしたい、こんな部屋に住んで、こんな家具を置いて、コーヒーカップの色はこうだと、とにかく、できるだけ具体的な夢を見る。頑張れば、そのすべてが現実のものになるのだと自分自身に言い聞かせ、自分にそれができないはずはないと自惚れ、そのためにはなんでもすると根性を奮い立たせるのです」。
その夢がかなったからといって、それで終わりではない。「実際に、夢がかなう時と言うのは無我夢中で、感動に酔いしれている余裕はない。一つ夢がかなえば、また一つ。最初の夢がかなう頃には、別の夢を見ている」。
この発言は、NO2になったのにも関わらず、総選挙の票の意味を心配していた大島や、NO1になったのに、自分は嫌いになってもいいから、AKB48は嫌わないで欲しいと言った前田を思い出させる。NO1になった者だけが感じることのできる自己実現願望の充足は、AKB48でもホストでも同じなのである。
一方、投票方法が多面的な収益モデルとなっていて、投票数が大きいのはもちろん、売り上げも大きいという点もホストクラブと酷似している。
ホストクラブの商品にはいろいろとある。ボトルだけでも様々で、『カミュ・ジュビリー』『リシャール・ヘネシー』『レミー・マルタン・ルイ13世』などのバカラ社製クリスタルボトルのブランデーは30万以上もする。シャパンコールは、シャンパンが入ったテーブルに店のホストたちが集まり、コールをすることだが、この時によく使われる高級シャンパン「ドン・ペリニヨン」は、色によって値段が異なり、安い順に、白、ピンク(ロゼ)、ブラック(エノテーク)、ゴールド、プラチナとなる。
ボトルを入れてもらえば、売り上げが立ち、それが高いものであれば、大きな売り上げとなる。またシャンパンは、お客と派閥の全員で飲むから、何本も注文してもらえば、売り上げは莫大になる。このように、売り上げを大きくするには、いろいろな方法がある。
一方、お客にもいろいろとある。「細客」は月に1度程度しか来店しないお客であり、「太客」は、店にたくさんお金を落としてくれるお客を言う。「エース」は、1人のホストの太客の中で、最もお金を使ってくれるお客である。
また「幹」と「枝」という呼び方もあり、これは、常連のお客がはじめてのお客を連れてきた場合、常連を幹、はじめての方を枝と呼ぶ。売り上げは、お客と商品の組み合わせによって高まるので、ファンといろいろな投票窓口によって得票数が決まるAKB48総選挙は酷似していると言えるだろう。
さて、この章のテーマは、AKB48選抜総選挙が、なぜこんなに話題になって、票が伸びたのか?なぜこんなに活性化が行われるか?にあったが、これをホストクラブで考えてみようと思う。ホストクラブとAKB48選抜総選挙が酷似しているのなら、ホストクラブの成功要因からAKB48選抜総選挙のそれを推測できるからである。
まずはなぜこんなに票が伸びたのか?
ホストクラブは、たくさんのホストを抱えることで、派閥同士を競わせ、派閥の長たちがNO1を目指す。一方、お客はいろいろな商品を注文することで、推しているホストがNO1になるのを応援する。このお客の心理を前出の愛田は、「女性は自分の見込んだ人を男にしてやりたいという気持ちを持っていて、自分に甘えてくる男のためになら何でもやってやりたいという母性本能を持っている」と言う。これをAKB48に置き換えれば、推しメンががんばるというのだから、できる限りの応援をしてあげようというファンの気持ちと言える。そしてホストクラブは、NO1を目指すホストを、いろいろな商品群でお客が応援するという構造となり、それが大きな売り上げを作る。この構造はAKB48選抜総選挙にも言え、NO1を目指すメンバーを、いろいろな投票方法でファンが応援するという構造が、大きな得票数をもたらす。さらに女性だけがお客であるホストクラブと比べて、男性と女性の両方のファンがいるAKB48の方が、ホストクラブよりも優れた構造であると言える。これが、AKB48選抜総選挙が、大きな得票数を獲得できる理由なのである。
続いて、なぜこんなに活性化が行われるのだろうか?
愛田は、ホストクラブを活性化するには、より大きなお店にすることが効果的だと言う。かつて愛田は、新宿のスタジオアルタ界隈に240坪という日本一の広さのホストクラブを作り、100以上の客席を連日、満員御礼にした。収まりきれないお客が、店の外まで長蛇の列を作ったくらいである。大きなお店にすると、ホストの数と派閥は増え、たくさんのお客が来られるようになる。これによって、ホストの指名も多様化し、各々が競い合うことで、順位の入れ代わりが激しくなる。つまり、活性化が常時行われるようになるのである。
これをAKB48で考えてみると、参加メンバーの数は、第一回98人、第二回108人、今回の第三回では152人と大幅に増えている。
また顧客の推移は、次のようになる。
・第一期初期ファン獲得期(2005年12月から2006年3月)の顧客は、秋葉原界隈を行きかう30~40代ぐらいのアイドルマニア。
・第二期ファン基盤形成期(2006年4月から2007年12月)の顧客は、AKB48オンリーのコアなファンと秋葉原界隈を行きかう30~40代ぐらいのアイドルマニア。
・第三期ファン拡大期(2008年1月から2008年12月)の顧客はAKB48オンリーのコアなファンと名古屋を行きかうアイドルマニア(SKE48)、東京、大阪、名古屋、福岡のアイドルファン。
・第四期は本格展開期(2009年1月から2010年6月)の顧客は、AKB48とSKE48オンリーのコアなファンと全国主要都市のアイドルファン(中高生まで幅広く)。
・第五期多面的展開期(2010年7月から現在)の顧客は、AKB48とSKE48オンリーのコアなファンと、大阪、福岡を行きかうアイドルマニアと全国主要都市のアイドルファン(中高生まで幅広く)、となっており、大きく増加していることが分かる。
このように、AKB48の場合も、参加メンバーの増加と、ファンの増加が確認できる。ゆえに、これが原因となって、ファンの多様化、活性化が行われたと考えられる。
ホストクラブとAKB48選抜総選挙は酷似していると言ったが、AKB48選抜総選挙は、ホストクラブの成功システムを、マス・メディアを活用して拡大したものであり、よりすばらしいものに仕立てたと言えるだろう。