思考。私はとっても思考している時間が長い人間です。いろいろな状況で思考を繰り返していますが、私にとってすんなりといい案が出てくる「時」というのがあります。今回はそれを紹介しましょう。
かつて勤めていた会社に、人間的にはソリが合わないのですが、企画、原稿ともすばらしい人がいました。その人の作品を見るたびに「なんでこんなにすごいんだろう」と嫉妬したものです。そうすると、彼の作風を全て自分のものにしようと考えたり、彼を超えるにはどうしたらいいのだろうと思考するようになりました。嫉妬できるライバルを作る。これが思考を活性化するのだと思います。
すばらしい作品に出会うとこれをコピーしたいと思いませんか?私は昔音楽をやっていた時からすばらしいものはバスドラのひとつまでコピーしていました。さらにそれが進むと、すばらしい作品を下敷きに、それを発展させた作品を作るようになりました。専門的にはこれをオマージュといい、パクリとは一線を画するものです。私のコラムの「告白」などもこのオマージュで、岡崎次郎氏の作品を下敷きに書いたものです。
村上春樹のノルウェイの森、山下達郎のクリスマスイヴ。大ヒットとなった作品ですが、どれも作者本来の作品群とは異質です。たぶんこれらはヒットさせようと思って作った作品なのでしょう。時代の要請とか生活者の欲求などを前提にした場合、「これなら当たるだろう」と思考することも大切なことだと思います。
映画でも本でもマンガでもテレビでもなんでもいいですから、良質なコンテンツを一度に大量に見る。これによって、思考はインスパイアされます。私はよく大量の書籍を眺めていますが、そうすると必ずと言っていいほど新しいアイデア、企画が浮かびます。消極的にユーレカを待っているよりも、積極的に自分の脳を揺さぶった方が効果的なのでしょう。だからヒマがなくなるのかも知れません。なぜかというと、ヒマな時はコンテンツばかり見ているので、その結果、また新しい仕事を作ってしまうからです。
いい考えが浮かんでいるのに、なぜかまとまりが悪い。こういう時は話してしまうに限ります。発話という行為は頭の中の意味を形態に置き換える作業です。言い換えれば、混沌としている考えを形にすることに役立つのです。私は理論らしきものが思いつくと、必ずセミナー等の仕事を入れて話してしまいます。そうすると、話すことがひきがねになって、理論の密度がさらに濃くなるものです。私はそういうことを何度も経験しています。
一生懸命ひとつのことを考えていてもなかなかまとまらない時があります。こういうことがないように、私はたいてい複数個の案件を同時に考えて、ひとつが行き詰ったら次、それも行き詰ったら次。そして最初に戻ってもう一度考える。というようなやり方をしています。思考というのは突き詰めて考えた方がいい場合もありますが、集中、解放、集中、解放というように、メリハリをつけた方がいいようです。これを可能とするために、複数案件同時思考というのは効果的だと思います。
多忙にすると発生するもの。それはたくさんの締め切りと大量の知識です。前者は自分をインスパイアするとともに、思いっきりのよさを与えてくれます。アイデアや企画というのは、混沌からどれだけ思い切りよく結論を選ぶかというところがあります。私はよく同じ題材をベースにしていても、実に思い切りよく答えを選ぶと誉められることがあります。これはきっと多忙だからでしょう。後者は、知識の使いまわしを可能にします。Aに適用した知識が実はBでも使え、Cでも使えるということがよくあります。これは多忙で、同時にいろいろなことをやっているからできるワザだと思います。
時間ができたらいろいろな街を徘徊します。街そのものの様子や変化を見たり、商品や店や人の流行を見たりすると、いろいろなことが思い浮かんでくるものです。これは④の大量にコンテンツを見るというのと同じ働きなのかも知れません。ただ、ひとつ違うのは、こちらの方が「今」を「自分の視点」で切り取ることができるという点です。ですから、私はこちらの方の優先度が高く、ヒマさえあれば街を徘徊しているのです。特に、神楽坂、新宿、恵比寿、六本木あたりが多いですね。
何もしてはいけないという時間を意識的に作ります。私の本の中で紹介したものを挙げれば、サウナとか電車。それに水泳とか待ち時間、何もしない休暇などが加わります。休暇をとるとすると、なるべく何もしないところにでかけます。今までですと、圧倒的に熱海が多いです。特に観光などもすることなく、早起きして散歩して、ビーチに出てボーッとし、夜も自分で食事を作って早々と寝る。その間、本を読む以外はただボーッとしています。ところが不思議なことに、ボーッとしていると次から次へ今度何をやろうというアイデアが吹き出てきます。意味のある時間を殺すことによって、アイデアや企画が出やすい状況が生まれるようです。
私はかなり執拗に同じことを何度も考えます。ある案件を考えはじめ、詰まったらやめます。そしてもう一度考え、最後まで考えます。これで終わりにしないで、もう一度最初から考えてみます。これによって、先の考えの悪いところが修正されます。そしてまた繰り返す。こういう作業をすることで企画がどんどんブラッシュアップされていくのです。私がよく言う、30日あったら29日は考えているというのは、このように頭の中で、企画を発酵させるとともに、完璧な形へ遂行するという意味合いもあるのです。普通の人はこういうしつこい作業を毛嫌いするようですが、私はこのしつこさが自分の企画を分かりやすいものにしているような気がしています。