アサヒビールの松山一雄社長はP&G出身の生粋のマーケター。その想いは、「ビールの価値をさらに高めていく。すべての意思決定の真ん中にお客様を置くことを徹底し、100年後も愛され続けるビール会社にしたい」というものです。
氏のヒットはいろいろありますが、ここでは「アサヒ生ビール(マルエフ)」のヒットを考えたいと思います。
復活のきっかけはコロナ禍で成長戦略が狂ったこと。東京オリンピックが延期となり、さらに無観客になって、東京オリンピックで勢いをつけて、ビール減税でさらにユーザーを拡大するという成長モデルが消えました。
これに対して競合は、糖質ゼロのビールをヒットさせます。コロナ禍のリモート生活で、太ることへの防衛とそれでもビールは飲みたいというニーズがうまく重なりました。
当然、社内からはなぜ追随しないのかと迫られます。しかし単に追随することの顧客価値は何か?一方、スーパードライ一本足から脱却するには、もう一つ骨太なブランドが必要だと考えたそうです。
そこで、スーパードライ発売前は本流で、これまで業務用として愛され続けてきた「アサヒ生ビール(マルエフ)」の登用を考えました。こんなに素晴らしいブランドを生かさない手はないと。
加えて、松山社長自ら、入社前からアサヒ生の大ファンだったそうです。そこから、マルエフを現代にアップデートして、新しい価値としてブランディングできないかと考えました。
そしてブランディングにおいて重要な情緒的価値を考え、スーパードライは刺激的でエッジが効いているハレのビール。一方、マルエフはその対極の癒やし系で、ゆっくりと大切な人との時間を過ごすときに飲んでもらいたいビールと位置づけました。
このように考えれば、両者がカニバリゼーションを起こすこともないし、なによりコロナ禍という状況にも適するポジションが獲得できます。
このように考えたのも「ビールの価値をさらに高め、すべての意思決定の真ん中にお客様を置き、100年後も愛され続けるビール会社にしたい」という想いがあったからだと思います。
価値と顧客第一主義、一過性ではなく永続視点が大切なことをこの事例は教えてくれますね。